睡眠の障害

睡眠の障害について

睡眠障害の分類
A)睡眠異常
不眠障害、過眠障害、睡眠覚醒スケジュール障害

B)睡眠時随伴症
不眠の持続期間
数日間のものを一過性不眠
1〜3週間のものを短期不眠
3週間以上を長期あるいは持続性不眠

不眠の型
1)入眠障害:もっとも頻度の高い症状

海外旅行の際の時差症候群 jet lag syndrome(新しい時計時刻に適応するまで時差1時間につき1日が必要とされている)

むずむず脚症候群周期性四肢運動障害

2)中途覚醒

睡眠の維持の障害で一晩に2回以上目が覚めたり、再入眠できないもの

さまざまな身体症状が原因となる
睡眠時無呼吸症候群周期性四肢運動障害

3)早朝覚醒

自分が望む時刻より朝早く目が覚めてしまう
内因性うつ、老人の生理的不眠西方向の海外旅

4)熟眠障害
眠った気がしない、眠りが浅いといった訴え

不眠の原因

5つのP +1P

1)身体的 Physical

身体疾患や身体症状が原因
掻痒感、頻尿、咳嗽、腹痛、頭痛など

睡眠によって引き起こされるもの

以下の3つは非休息性睡眠とよばれ、日中の眠気を主訴とする

睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に無呼吸が起こり、これによる覚醒反応のために睡眠が分断され、夜間の不眠や日中の眠気が生じる

高齢者では頻度が高く、約20%にみられる

10秒以上の呼吸停止が睡眠1時間あたり5回以上出現した場合に診断される

中枢型(呼吸運動自体が停止)と閉塞型(呼吸運動は続くが上気道の閉塞により換気が停止)、混合型にわけられる

原因として肥満、上気道の形態異常、加齢による呼吸調節の変化
窒息感を本人が自覚した場合やあえぐような呼吸や呼吸がとまるのを家族が観察した場合にこの疾患を疑う

むずむず脚症候群

夕方から夜間入眠時に出現する
脚のむずむず感、ほてりなどを訴える
貧血や腎疾患に合併することが多い

③周期性四肢運動障害

睡眠中に下肢筋の不随意運動が周期的に反復しておこる
男性高齢者に多い

多くの患者は不随意運動を自覚していないことが多い
足がつる、つっぱるなどの訴えがある場合、本症候群を疑う

2)薬理学的 Pharmacological

中枢神経刺激薬
甲状腺ホルモン剤
喘息に使うキサンチン誘導体

コーヒー、お茶、ニコチン
アルコールは入眠は促進するが、中途覚醒を起こしやすい

3)精神医学的 Psychiatric

統合失調症、うつ病、神経症など

4)生理学的 Physiological

転居、旅行、入院などの急激な環境の変化
時差症候群、交代勤務

5)心理学的 Psychological

冠婚葬祭に代表されるさまざまなlife eventは心理的ストレスとなり、不眠を生じる

6)リズム位相性 Phasic

概日リズム障害
(臨床精神医学講座 睡眠障害 p76 図19)
概日リズム睡眠障害

56歳、男性  睡眠相前進症候群
若い頃から生活は規則正しい方であった。50歳を過ぎた頃より、次第による夜眠る時刻が早くなり、20時には起きていられないほど眠くなり、3時頃には目が覚めてしまうようになった。生活習慣により、8時の会社始業時間前に2〜3時間太陽光を浴びていることがわかった。8時まではサングラスを使用するようにしたところ、次第に夜遅くまで起きていられるようになり、約1ヶ月後には23時まで起きて5時まで睡眠がとれるようになった。

一過性の睡眠相の前進は交代勤務で早朝出勤が続いた場合や西回り時差飛行の後にもみられるが、通常1〜2週間で望ましい時間帯に戻る
睡眠相後退症候群は思春期から青年期に発症することが多い
不登校となったり、定刻に出勤できず仕事を続けられない場合も多い

概日リズム睡眠障害

時差症候群 jet lag syndrome
5時間以上の時差のある地域をジェット機で急激に移動した際に時差ぼけを生じる
中心症状は、睡眠覚醒リズム障害、他にだるさや疲労感も強く、身体的な能力も低下する

集中力や思考力も落ち、ふだんのようにきちんと考えたり行動したりできない
胃腸症状もみられ、便秘や下痢、食欲不振などもおこる

1950年代、Postが愛機ロッキードベッガーに乗って8日間で世界一周を成し遂げた際、時差による心身の状態の変化とその回復について報告
その後、本格的な時差ぼけ研究が始まる

1959年、9時間の時差のある韓国とミネアポリス間をジェット機で移動した旅客に調査
出発地での生化学的分泌パターンは到着後乱れ、それが現地(韓国)の時間に適応するのに約11日かかった

この事実から、1時間の時差を回復させるためには約1日が必要であると結論した

同じ時差のずれでも東方と西方では差がある
⇒ 東方飛行では、リズムを前進させて現地に同調させなければならない
われわれ本来のサーカディアンリズムは25時間
⇒ 位相後退をおこしやすいリズムに逆らって周期を短くさせなければならないため

時差症状の治療の基本方針

1)ずれたリズムを早く現地にリセットさせる
  現地の社会リズムや明暗にあわせる
2)現地の夜にあわせて睡眠をとるようにする
3)短時間の仮眠をとり、旅行中の睡眠不足を解消する
4)現地到着後、昼であったなら眠くても光にあたる
5)短時間作用型の睡眠薬を使って睡眠をとる

交代勤務睡眠症候群

勤務スケジュールに関連しておこる一過性の不眠や過眠
特に深夜勤務後の日中の睡眠は正常な睡眠をとりにくい

睡眠短縮がおこり、睡眠は不満足でリフレッシュしない
日中の過眠と集中困難も起こる

シフト勤務者の訴えとして多い三大症状
睡眠障害、疲労感、胃腸障害

シフト勤務の形態では、変則二交代制、完全二交代制も増えてきているが、現行では三交代勤務が多い

ヨーロッパでもほとんどの国が、2日の日勤、2日に夕勤、2日の夜勤、2日の休日という勤務形態をとっている

= コンティネンタルローテーション
このような早い回転の三交代勤務では、睡眠不足や疲労が最低限におさえられるよう配慮されているが、夜勤とその前後の睡眠障害の訴えが多い

工夫

深夜勤務後の休日や夕勤を多くする
深夜勤前にはなるべく朝早い時刻に就眠する
深夜勤前に仮眠する

睡眠時随伴症 parasomnia

睡眠中におこる望ましくない身体現象

REM睡眠行動障害 REM sleep behavior disorder
ねぼけて殴る、蹴るなどの暴力行為を示す
素早い暴力的動作が多くみられ、同室者を殴ってしまったり、ドアや障子を壊してしまう場合がよくある

大声で呼びかけ、体をゆするなどすると完全に覚醒させることができる
悪夢、寝言を言い、暴力的な動作が夢の内容と一致している
50〜60歳以上に多い

夜驚症 sleep terror disorder 

学童期に多い
暴力的な動作はまれ
しかし、行動を止めようとした場合に完全に覚醒せず、錯乱して暴力的行動をとることがある

異常な行動をとったという記憶はほとんどない

睡眠中に歩き回る場合に考えられる診断

1)睡眠時遊行症 sleep walking disorder
睡眠中に起きあがり、軽い前傾姿勢(まえかがみ)で歩き回る
ときに逃走するように走り始めることもある
目は開けており、ドアや窓を開けたり、的確に障害物を避けたり、階段を上がったりする

転倒することがあるが、頻度は高くない
ほとんどが学童期にみられ、その後にはみられなくなる

2)REM睡眠行動障害
歩き回る場合があるが、目は閉じているか、半分あけているくらいなので、ぶつかったり転んだりすることが多い
半数以上の患者がけがを負う、また同室者が暴力をうけてけがをすることも多い

3)てんかん発作
歩行はもうろう状態でおこる
目を開けて動き回り、強い刺激を与えても覚醒させるのは困難

4)ヒステリー発作
悪夢 nightmare
恐ろしい夢でREM睡眠からの覚醒を伴う
恐怖や不安があり、次第に恐ろしさを増していくものが多い
子供に多く、3〜6歳の半数近くが悪夢を体験すると言われる
通常は数週から数ヶ月で悪夢は消失し、からなずしも治療は必要としない

睡眠麻痺 sleep paralysis
いわゆる「金縛り」として一般に知られた現象
四肢、体幹の筋が睡眠中に麻痺して動かせなくなる

眼球運動と呼吸運動は動かせる
通常、1分から数分続き自然に消失する
恐怖を伴うことが多く、呼吸困難や入眠時幻覚を伴う
だれかが部屋にはいってくる、体の上に何かがのしかかってくる、体が宙に浮き上がる

正常なREM睡眠に特徴的な錐体路抑制機構が入眠時あるいは出眠時にまどろんだ状態で働いた結果おこると考えられている

睡眠障害治療薬

睡眠薬とは、通常睡眠導入を目的に用いられている
バルビツール酸系薬物は、1950年代まで代表的な睡眠薬として用いられていた

ベンゾジアゼピン系薬物

抗不安薬、睡眠薬、抗てんかん薬として用いられている

消化管からの吸収が速く、脳内移行も速やかであるため作用が早い

大脳辺縁系や視床下部などに作用して情動性興奮などを抑制して睡眠に導入
不安の強い患者では抗不安作用が治療効果をもたらす

生物学的半減期から長時間作用型(24時間以上)、中間作用型(12〜24時間)、短時間型(6〜12時間)、超短時間型(6時間以内)に分けられる

欠点
長期連用後の中断で不眠、不安、振戦、易刺激性、筋緊張などの離脱症状が出現

常用量でも依存を形成することがある(中間作用型に多い)

長時間作用型、中間作用型では翌日への持ち越し効果、蓄積効果
= 翌日まで眠気が残り、精神機能の低下をもたらすことがある

短時間作用型、超短時間作用型での反跳性不眠

筋弛緩作用による転倒や骨折
呼吸抑制
順行健忘をはじめてする記憶・認知障害

メラトニン

生体内ホルモンの一つであるメラトニンが概日リズム睡眠障害の治療に有効であると報告

光に曝されるとメラトニンの生成が抑制され、逆に遮断されることによって促進される
(1960年代ラットの実験で証明)
1975年、人でもメラトニンを計測することが可能になり、夜間分泌が促進し、日中は抑制されることがわかった
メラトニンは睡眠促進作用があり、投与後1〜2時間で効果が発現する

また、ベンゾジアゼピン系の急激な眠気とは違い、より緩徐で自然な経過をとる
1980年代、時差症候群にメラトニンが有効であったことから、概日リズム障害の治療に用いられるようになった

朝に投与した場合は位相を後退させ、午後に投与した場合は位相を前進させる
睡眠相後退症候群では望ましい入眠時刻の3〜5時間前に投与する方法が行われている
現在0.5〜3mgの比較的少量のメラトニンが治療に用いられている

日本でも2010年代に、ラメルテオンとして導入された

副作用:メラトニンの過量分泌による男性の性機能不全や女性の無月経が生じる

オレキシン受容体拮抗薬

睡眠からの目覚めを促す「オレキシン」というホルモンの働きを抑制する
日中の活動性を下げることにより、睡眠を促す

日本では、2014年から使われている新しい薬である

欠点
起床後に眠気が残る、持ち越し効果が出現することがある