2018年7月11日
よいものを提供しようとする苦悩

連休の前半の休日。
地元でミシュランを獲得した鮨屋に食べに行きました。

この店は、以前から、評価している店で、大将がよいものを提供しようと、日々、努力されています。
ミシュラン獲得前に出向いた前回も、内容がグレードアップしていると感じました。

シャリも赤酢を使い、まろやかになっていました。
2年前は、酢飯がポロポロして、自分が持っている魚沼産コシヒカリと取り替えたいと夢想したこともありました。

ネタは、もともとよかったけれど、さらに仕入れにこだわっているようです。
よいアジを提供してくれる店があれば、全部、買い占めるくらいの勢い。

まぐろや他の魚も寝かせて、熟成させているようです。
私は、素人なので、熟成するのが、どういうことか知りませんでした。

ネタを塩水につけて冷蔵保存します。
塩水は、毎日取り替えます。
そうして、旨みが出た頃、客に提供するわけです。

ですから、熟成した魚は、機が熟するのを待つ事になります。
と同時に、熟した後の使用できる期間が短いということです。

ウニも、高値で築地から仕入れ、原価で出しています。
もし、残すことがあれば、それだけで、原価割れです。

調理法も、鰹のたたきは、客に出す寸前にわら焼きで、焼いて温めます。
海老も殻をむいで、1分お湯に浸し、適度な温度になったものを提供しています。

東京の一流店のような手間のかけ方です。

それだけ手の混んだことをしますが、仕入れの原価は、半分を超えます。
いわゆる、飲食店では平均の30%くらいという常識を大きく上回ります。

開店寿司もそうですが、高級店が高いのは、競ってよい素材を求めるため、仕入れ値もかなり張るようです。

高級店では、特にお約束のマグロは欠かせません。
だから、卸の仕入れが高いと、原価割れすることもあるそうです。

鮨は、値段が高いのですが、それなりの理由があります。

東京では、ミシュランガイドに星付きで掲載されると、客が押し寄せます。
特に、3つ星をとると、世界が変わるようで、極めて、予約困難なお店に変貌します。

東京には、地方から押し寄せる客もいますが、元々、富裕層が多いため、常連客が食事をした時、次の予約をとって帰ります。
従って、元々少ない予約枠がさらに小さくなり、一見の客には、とれなくなるのです。

1人当たりの単価が3万円を超えるというのに、予約がとれないとは、尋常ではありません。

私は、15年くらい前に、一生に一度、すきばやし次郎の予約をとるかどうか、迷いましたが、値段の壁に阻まれ、予約を入れることがありませんでした。

後に、ついに覚悟を決めて、予約の電話をした時には、もう予約がとれなくなっていました。
何度かけても、電話がつながらないのです。

予約をとるプロのプレミアムカードのコンシェルジュに依頼したこともありますが、すきばやし次郎は、とれないと言っていました。
クレジットカード会社が企画する会員専用プランの抽選も連続落ちしています。

握り手の次郎さんも90を超えるお年だし、もう無理かな、と思っています。

とはいいながら、機会があれば、伺いたいですが、それほど、切に思わなくなってきました。

自分を受け入れてくれるところが、いいところ。
背伸びをする理由もないし、誰かに媚びを売って、予約をしてもらう必要もないだろうと結論づけています。

世の中には、自分の知らないことでいっぱいです。
別の知らない世界を探求していくのも、おもしろいと考えています。

さて、話を戻して、今回、ミシュランの星を獲得した、地元の店。
これから、しばらくは、以前より予約がとりにくくなるかもしれません。

ただ、それは、おそらくは一時的なもので、余裕を持って日を選べば、予約することができるでしょう。
それに、東京よりも安い値段で食事ができます。

地方では、東京と比較すると、圧倒的に富裕層が少ないため、東京価格で、料理を提供することができません。

よいものを提供しようとしている大将に苦悩の影が見えました。

「1つ1つの原価や値段を気にしていたら、やっていられなくなる。
 月のトータルで、ある程度の利益があれば、やっていけるだろうと思いながら、仕事をしている」
そう言われていました。

おそらく、ミシュランを獲得する前のことでしょうが、一緒に仕事をしていた人が、独立して、人の切り盛りが難しくなっているようです。
確か、昨年の年末には、見かけていたため、今年になって、離れたのでしょう。

今の大将が、前の店から独立して、前の店の質が落ちたように、有能な人間が抜けると、同じクオリティを保つことが難しくなりそうです。

ふと、見ると、大将の腹部は、以前と比べて、格段に出っ張っていました。
おそらくは、運動もできないまま、食って、内臓脂肪を抱えているのでしょう。

この店の大将も、ミシュランに掲載されてうれしいというより、今後の運営をどうしようかというストレスにさらされているのかもしれません。

鮨屋は、ラーメン屋より潰れるケースが少ないように見えますが、安心はできません。
この店の場合、現在の最大の危機は、大将の体力と気力が持つか?
もしかすると、最悪、大将が、成人病で倒れるようなことがないかが懸念されます。

※注:このブログでは、おなじ「すし」でも、大衆店を「寿司屋」と記載し、高級店を「鮨屋」と記載して分けています。