2018年8月6日
薬剤研修会と専門医のしめつけ

これまでにも、厚生労働省は、向精神薬の適正使用を推奨していました。
しかし、なかなか思うように進まないことに対し、ついに強硬手段に打って出ました。

保険診療で出すことのできる薬を厳しく制限することにしました。
これを超えると、保険がきかないから、やるなら、自費にしてね、ということです。

抗うつ薬と抗精神病薬は3剤までとなりました。
ほとんどの人は、これで足りていますが、ごく一部の重症の方、難治性の方については、工夫して、減らさざるを得なくなりました。

日本の医療保険は、一部の薬剤や治療だけを自費にするということができませんので、1剤でも自費にしたら、すべてを自費にしなければなりません。
診察代も処方せん料も、薬代も超材料も処置料も含め、すべてです。

これが、「混合診療の禁止」というものです。

さて、これに付随して、制限を加えたものがさらにあります。
睡眠薬と抗不安薬です。
睡眠薬と抗不安薬を処方することができるのは、それぞれ、2剤までになりました。

この改訂が4年前です。
本丸を目指して、外堀を埋めてきました。

次の改訂(2年前)では、抗うつ薬と抗精神病薬は、2剤までの制限となりました。
前回の改訂では、何とか対処できましたが、その改訂では、若干名の方には、対応できませんでした。

そのため、専門医で薬剤研修を受けた医師に対して、理由を記載して処方を行う特別枠を使うことになりました。

そのため、3ヶ月に1回、すべての向精神薬を使用した人数、抗うつ薬を使用した人数、抗精神病薬を使用した人数、抗不安薬を使用した人数、睡眠薬を使用した人数、そして、それに対して、多剤併用療法を行った人数を記載したレポートを提出しなければならなくなりました。

大変、煩雑な事務作業です。
最初、1例、1例数えながら、カウントしていきました。
嫌気がさすほどの時間と労力がかかります。

病院では、薬局か事務のいずれかが、その計算をしているものと思われます。
多剤併用療法を行う罰則のようなものでしょうか。

私どももしたくて、しているのではないのです。
ましてや、こんなペナルティのような仕事をさせられるのであれば、いずれは、専門医を辞退してもいいかと考えるようになりました。

現在、「国が指導してやろう」という算段で、機構専門医という制度が、一部の学会で導入されています。
これは、学会では基準が甘いから、専門医機構がきちんと基準を作って、そのお墨付きをやるという制度に変えていこうというものです。

しかし、この動きに反発あるいは、見合わせている学会がたくさんあります。

・機構専門医になるためには、余分な講習を受けるだけでなく、更新料として、毎年1万円の上乗せ料金を支払わされる。
 そして、その専門医機構は、厚生労働省の天下り先であることが歴然としている。

・専門医機構の金の流れは不透明で、さほど大きな意味もなく、地価の高い丸の内に事務所を構え、相場よりも高い賃料を支払っている。
 そして、どのような活動をしているのか分からない。

・機構専門医になるためには、機構が指定した講座を受講しなければならないため、単位のとれる講座にだけ、大行列ができる。
 それ以外の講座は、意義のある会であっても、閑散としていることがある。

 ここに、いい人の仮面をかぶって、学会を支配し、利権を獲得する団体が暗躍する素地を与えることになるのです。

ドクターXの大門未知子は、「私、失敗しないので」というセリフで、高視聴率をとって、有名になりました。
現実には、失敗しない人間はいないのですが…

もちろん、失敗のレベルによります。
ミスとして、失敗するケース。
予見できないケース。
現代医学で最新の注意を払って、すべてやりきったとしても、結果が伴わなくて、失敗となった場合、どうするのでしょう?

私自身は、機構専門医になるかどうかの選択をする時、いつか、専門医を辞退すると思います。

「私、失敗するかもしれないので」