2023年5月4日
保有していない通貨を作る信用創造というシステム

今回は、通貨について、意外に知られていない事情を私の創作話を元に展開していきます。

信じても信じなくても自由です。こういう世界があるのかな?と想像しながらお読み頂けたらさいわいです。

通貨は、借り手が、返還金を求める以上の供給を行っていることが普通です。

普通というのは、歴史的にそうなっていることを指します。

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登場人物紹介

講師
一文字浩介

地方の準難関大学卒であるが、なぜか帝国大学の講師をしている
心理学者の若手

興味は豊富で、多彩な知識を持つが、まだ何も大成していない
学術とは変わった認識を持つ
言葉使いは、ていねいだが、少し変わり者

生徒1
橘涼香

元、理系女子
宇宙など、壮大なものにあこがれる
宇宙物理学科を目指し、大学受験では合格できるレベルにあったものの、研究に残ることができる者は、ごく一部の天才だけと知り、人文科学を専攻する
気丈な性格といえる

生徒2
円山由貴子

文系女子
ふくよかで、穏やかな才女
彼女の優秀さは、時にかいまみられる
感性豊かな性格

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一文字:近代のヨーロッパの金の預かり所では、金を預ける人は多いけれど、引き出す人は少ないため、預かっている金額の8倍まで貸しだしをしていました。

その預り証書は、昔の株券のように他人に売却することができたため、紙幣の元となりました。

金預り商では、支払えない状況(現代の言葉では、破産、債務超過、デフォルト)になると、首つりの刑に処されました。

橘:ええー、残酷。

一文字:そのため、預り商は、資産家であっても、それを隠すため、黒い服を着て、質素な生活をしていました。

こうした金商人は、正規の簿記と裏事情が書かれた複式簿記を行っていました。
いわゆる、今でいう秘密の裏帳簿です。

現在の会計に広まっている難解な複式簿記は、ここに遡ります。

円山:なるほど、そうでしたか。

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一文字:一方、日本の財務省では、単式簿記が採用されています。

複式簿記にどのくらいの意味があるのでしょうか?
それは、単に税務申告に必要だからかもしれません。

ところで、日本で健全とされる銀行は、自己資本が8%以上あることです。

円山:それは、どういうことですか?

一文字:貸し出しおよび投資金額は、最大でも、資本の12.5倍までにしておきなさい、ということです。

橘:なんですか! それは、どういう意味ですか?

一文字:持っていないお金を作る制限をしなさい、ということです。

橘:ええー!持っていないお金を作ることができるのですか?

一文字:はい。前の節で、金の預かり所が、そういうことをやっていたと言ったでしょう?

橘:え、今でもそういうことをやっているのですか?

一文字:そうですよ。
銀行の起源となった、金の預り所と似たスキームです。
ですから、銀行の金庫には、たいしたお金は入っていません(一般人からすると大きいですが)。

現実に、ないお金を作ることを、信用創造と言います。

信用創造 👈クリック
出典:Benesse

取り付け騒ぎが起こると、倒産するのは、すぐに準備することのできる現金が少ないためです。

橘:なるほど!そういう錬金術があるということですね。

一文字:世界的な金融危機を防ぐために、国際決済を行う銀行には、一定の基準を設けたというわけです。

バーゼル3 👈クリックで拡大
出典:日本銀行

現在は、バーゼル3という基準が適用されています。

現在の銀行では、信用創造という、「資本金 + 預金額」 より多くの金額を貸し出すことができるようになっています。

一般に個人投資家では危ないと言われる、レバレッジをかけているのです。
株の信用取引ですら、元金の3倍までですからね。

信用創造 👈クリックで拡大
出典:ウィキペディアより

橘:えっ?銀行って、そんなにリスクをとっているのですか!

一文字:そうですよ!そのため、自己資本比率が低い銀行に制限をかけているのです。

日本で健全とされる銀行は、自己資本が8%以上ですが、それでもレバレッジは10倍を超えています。

現在でも、銀行員の服は、黒が多く、派手なスーツは見ないでしょう?
銀行の営業マンで、赤色やオーシャンブルーのスーツをみたことがありますか?

円山:なるほど。お金はあっても、地味ですね。

一文字:物事の本質は変わらないのです。

橘:ここで、数学的な疑問があります。現実にないお金を貸した場合、リスクはどうなるのですか?

一文字:よい着眼点です。
経済が成長している段階では、問題なくリスクが減って、利益が出ます。
その反対に、景気が悪くなると、歯車は逆回転して、リスクが増します。
リーマンショックが、100年に一度の危機と言われたのは、銀行の連鎖倒産がありえたからです。

円山:怖い話ですね。
具体的には、どのような状態になっているのでしょうか?

一文字:現在、世界の債務は300兆ドルを超えています。
為替の変動はありますが、日本円で言えば、4京円くらいになります。

橘:兆の単位でなく、京になっているのですか!

一文字:そうです。

円山:それで、世界経済は回っていくのでしょうか?

一文字:ぼくにも分かりません。
うまく乗り越えることを願っています。
場合によっては、通貨崩壊が起こるかもしれません。

橘:通貨崩壊とは、どのようなものですか?

一文字:典型的なものでは、第一次大戦後のドイツの天文学的インフレーション、それから数年前からのジンバブエの超ハイパーインフレ−ション。今は、ベネズエラも入っています。

崩壊まではしていませんが、トルコリラは、10分の1くらいに切り下がっています。
10年以上前、1トルコリアは、1ドル近くありました。
それが、今では0.1ドル界隈をさまよっています。

タイミングにもよりますが、通貨崩壊は、経済と通貨の弱い国から訪れます。
カルロス・ゴーンが避難したレバノンでは、通貨がデフォルトしました。
その前から、銀行から引き出すことのできる金額に大きな制限がかかっていました。 1日に3ドルほどしか引き出せないとか。

橘:どこの通貨が弱いのですか?
一文字:一般には、新興国からやられることが多いです。

円山:先進国は大丈夫なのですか?

一文字:
この度は、低金利でマネーを供給したことにより、資産バブル(主として、株と不動産)が熟成されため、先行きの予測が困難です。
今回は、ヨーロッパ発の金融危機の可能性もささやかれています。

G7先進国では、イタリアが最も危険でした。最近。トラス首相に代わった後、イギリスも危ないとみなされています(現在は政権交代)。
もしかしたら、最近、だれも言わなくなった○○国の△銀行?

とはいえ、日本の金利が上がって国債の信認が低下した場合、日本国が最初に窮地に追い込まれるかもしれません。
ご存知の通り、日本の国債発行額は多すぎるのです。

橘:それは、私も知っています。

一文字:自国通貨を発行する国は、デフォルトしないというMMT理論に基づいて、世界初の実験をしています。

橘:そうでした。しかし、そのMMT理論は、うまく機能するのでしょうか?

一文字:分かりません。この理論は、最近言われなくなりました。
ぼくは、日本はもう1回利上げがあると考えています。

橘:その根拠は、何ですか?

一文字:以前、説明した、金融の正常化とYCC(イールドカーブ)の正常化のためです。
ただし、日本では、後1回か2回までしか利上げができません。

1000兆円を超える国債が、1%に利上げすると、毎年10兆円以上の利払いを強いられます。
それが、財政破綻を起こすかどうかのボーダーラインと考えます。

円山:まずいことだらけですね。
いずれくる株価や不動産のクラッシュに対して、金融危機は避けられるのでしょうか?

一文字:正直いって、分かりません。
今は、なるようになるとしか言うことができません。

円山:そうすると、現在の社会主義的な医療提供は財源の枯渇によって終わりを告げることになりますね。
高齢者の治療にも制限がかかるかもしれません。

一文字:その通りです。
君たちのような若い世代は、たくましく生き残ってほしいです。

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考察:現在の通貨は、残るかどうかの瀬戸際に立っている
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今日もフィクション話に付き合って下さってありがとうございます。