2015年5月7日
どこの経営が一番厳しい?病院とホテルと航空会社

私が勝手に調べた数字ですので、すべてにあてはまるわけではありません。
個別の事情というものも大きく関係します。
そうした前提で、ぼくは、病院経営についてのお話しようと思っています。

◆勝手に調べた資料
1 ホテル
経営の損益分岐点は、年間稼働率は、60%~70%であるところが多いようです。
土地を利用して、システマチックに運用しているところでは、50%を超えれば利益が出る場合もあります(ただし、これは特殊事例です)。

2 航空機
客席の稼働率が70%を超えると、採算にのる場合が多いようです。

3 病院
病床の稼働率が90%を超えないと、黒字化は厳しい。
となると、借金を返済することも難しくなります。

以上の知識を一つの材料に考えてください。
その点を踏まえて、医療の経営に努力が足りないかどうかを考えてみたいと思います。

◆保険診療という事情
それほどは知られていないようですが、年々、病院の経営は厳しくなっています。
診療報酬改定といって、2年毎に、保険の仕組みや金額も変わっていくのです。
いくつかの項目がプラスになることはあります。
でも、全体をみたら、マイナス改定。

医療全体でみたら、プラスの改定でも、診療所では、改定の度に、報酬が下がっています。

医療は、保険制度が基本なので、個別の裁量のきく、自費部分を除けば、単価が下がっています。

仕事や個人的な用事で、ホテルや航空機は割合利用しますが、通常、正規料金よりは安い値段で予約することが多いですね。
つまり、ホテルも航空業界は客単価が下がっているということになります。

一方、値下げのないと思われる病院でも、同じことをしていれば、客単価が下がります。
それは、先ほど述べた、診療報酬のダウンにより、自分たちの意志とは関係なく、値下げさせられているのです。

保険診療は、「全国、どこの医療機関でも同じ値段で受けることができる」ということが謳い文句なので、勝手に値上げすることはできません。
一方、競争によって、値下げすることも禁じられています。

◆稼働率を上げるだけでは黒字化できない
近年、大病院で経営を黒字化する仕組みが大きく変わりました。
稼働率が90%を超えても、赤字になる仕組みを作られたのです。

ご自身やご家族が入院することのない方には分からないことでしょうが、入院してよくなると、すぐに退院を迫られます。
行き場のない方には、療養病床を勧められます。
そして、その先は、施設へと続く道のりとなります。
(せちがらい世の中だとお思いでしょうが、同情では食っていけません)

大病院の経営として、患者さんを長く入院で留めておくと、最悪、100%の稼働率でも赤字になるのです。
そのため、早期退院に向け、新たに入院を受け入れするという、自転車操業的な、別の意味での回転率が要求されるようになったのです。

これをある数字でみていくことにしましょう。
同じ患者が滞留して、病床の稼働率が90%の病院があるとします。
ある一定の期間(例えば、1ヶ月)に診ている患者数は、病床数×0.9です。
仮に400床の病院といたしましょう。
1ヶ月に診る患者は、400 × 0.9 = 360人 となります。

一方、平均入院期間が15日の病院では、患者さんが月に2回転します。
ですから、仮に病床稼働率が60%に落ちたとしても、
400 × 2 × 0.6 = 480人 となります。

詳細な診療報酬は、数だけはありませんので、数だけでの比較はできませんが、平均入院期間を短くして、回転率をあげながら、病床数を落とさないような仕組みが必要となります。

しかし、回転率を上げると、必然的に病床の稼働率が下がるため、常に新しい患者を入院させなければ、生き残れない仕組みとなっているのです。

ここに一番かかわる医師は、大量の入院患者を診ないといけないことになり、カリカリするわけです。
新規の急性の人をみながら、療養に移る体制を整え、外来を行った後、退院サマリーなどの書類も作成しなければなりません。
そのため、最近、医師のサポートを行う医療クラーク(あるいは、医療秘書)がおかれることが多くなりました。

医師にしかできないことに特化して、効率を高める仕組みを作らなければなりません。

◆しかしながら、まだ医療には、「カイゼン」するための方策が残っているはずです。
意外に厳しい病院経営ですが、それでも、倒産する病院は限られています。

航空会社は、その多くがつぶれた経験を持っています。
近年では、JALの例をみれば、分かります。
ですから、本当のところでは、航空会社の経営は、病院経営より難しいのではないかと個人的には考えています。
だから、医療にもまだ、カイゼンする余地は残っているはずです。

しかしながら、国は、本気になると、もっと病院をつぶせます。
といって、本当に大量につぶすと、恐ろしい医療崩壊に結びつきます。
そして、その結果起こりうる、庶民の怨嗟は、政党への不支持へとつながっていくはずです。
ですから、国は、病院に対して、少しずつ経営努力を求めながら、「生かさず、殺さず」という政策をとるものだと考えます。
ぼくたちは、徳川家康が江戸時代に行ったような農民のような立場として、国からみられているのではないかといぶかるのです。

医師、薬剤師、看護師は、「師」が後ろにつく職業です。
弁護士、税理士、司法書士、行政書士、社労士などは、「仕業」です。

医師は、「師」という言葉にのせられながら、こき使われているのかもしれません。
つまり、国としては、士農工商の一番下にありながらも、体裁を形作って、給料をよくして、押しとどめている奴隷のような存在というのが本音かもしれません。