2015年6月5日
人の専門知識をただで取る人

職場の人事の方でも、最近、「うつ」が増えているという印象を持っていると思います。
だって、診断書を持ってくる人が休職する人が現実に増えているし、統計をとらなくてもいい、確信できるレベルの増加です。

それで、最近になって、メンタルヘルス対策を行うようにしている企業も増えてきました。

しかし、ぼくの個人的な感想では、うつで休む人が増えていて困っているので、形だけでも整えておきたいいう体裁を整えているだけで終わっている企業が大部分のようにみえます。
いわば、人形に着せ替えをする程度の取り繕い。

今は、黎明期なので、そんなものかもしれません。

そういう状況で、理不尽な要求をされる企業も散見されるようになりました。

休職者の状況について、詳細な資料を要求する企業が結構出てきたのです。
特に、復職するときに、資料を求められます。

昔は、「○○日より、復職可能であると判断する」でOKでした。

最近は、残業させてよいか、出張させてよいか、交代勤務させてよいか、運転業務につかせていいか、現在の職場にいさせてもいいか…。

最初は、まだ質問が少なかったので、それなりに回答していたのですが、その質問の量と詳細さを求める資料を要求されるので、最初、当惑していたのが、この頃、いらだちに変わってきました。

だって、一般的なことは言えるけど、ぼくは、あなたの職場でのどんな仕事をするのか知らない。
どれくらいの負荷がかかるなんて、もっと分からない。
回答しようのない質問が出てきたのです。
さらに、主治医に詳細な診断書や意見をかかせることで、主治医の責任にするという意図がみえます。
一方、主治医が「職場を異動した方が好ましい」という診断を提出しても、職場の権限を損なうことはできないので、しばしば無視されます。
自分たちの都合のよいところだけ取り入れ、そうでない部分は捨てる、という企業が一般的です。

ところで、産業医のいない、ある中小企業の人事の方が、社員の復帰について相談に来られたことがありました。
ぼくが、その人に基本的なことから具体的なことを一通り説明するのに1時間以上かかりました。
会社の方だけ来て、無料の相談です。
そして、その後の状況をみたら、長く待たされた患者さんが、悲痛な表情で顔を歪めておられました。

ぼくは、うすうすおかしいとは思っていました。
病気の人が、きちんと待って、診察を受け、そしてお金を支払ってくださる。
一方、企業側は、健康な方が都合のいい時にやってきて、人の時間と知識と労力をただでとっていく。
時間については、ぼくの時間だけではありません。後に待たれているすべての患者さんに対してもあてはまります。

ぼくは、これではいけないと考え、ある決意を固めました。
患者さんからは、診察料をいただいている。
企業が説明を求める場合は、相談料と区別して、料金を請求しよう決めました。
相談料には保険が使えず、自費になるため、金額が相応となりますが、本当は、ぼくが普通に診察していただいている時給より安く設定しているのです。

こういう試みを行った時、企業側の熱意が分かります。
「お金が必要」と分かると、「じゃあ、いいです」と言われるところが増えたのです。
ぼくも、お金がほしくてやっているわけでなけではありません。
・他の患者さんに迷惑をかけないこと
・時間と労力を節約すること
・表面的、書類的な作業ではなく、本当に必要な話を建設的にしていきたいこと
・聞けばいいやではなく、聞きたいことを予め考えておいてほしいこと

などの理由で意志決定したのです。

まじめな職場では、きちんと聞きたいことの要点をまとめた書類を作成して、ポイントを抑えた質問をされます。
これをすることによって、面談の内容が濃くなり、また時間短縮に役立つため、料金も安くなります。
そして、ぼくも誠意のある企業に対しては、予めお教えした規定の料金より安く設定することもあるし、無料にすることもあります。

ただ、そうではない企業もあるのです。
とにかく料金を払おうとしない、でも、要求する水準は高い。

そういう企業に対して、ぼくは、産業医と工場責任者あてに手紙を書きました。

産業医に対しては、「患者さんの同意があれば、診療情報開示を特別優遇の無料といたしますので、ご自身でご来院いただき、カルテを閲覧して、必要事項を聞き込んだり、決定してください」という旨の手紙です。
それができなければ、ぼくがお答えできるくらいの情報はいただき、相応の金額を会社(患者さんではなく)が支払ってください、ということも付け加えました。

工場長あてには、
・産業医が求める資料は作成いたしかねます
・近年のうつの状況から鑑みると、職場の労働環境を整えなければ、意味がないです。
・医師にとって、商品にあたるものを無料で提供してほしいという要求はやめてください

そして、産業医にも工場長にも書いたこと
・こういう要求に応え続けると、主治医のメンタルヘルスに変調をきたすおそれがあること
・「当社の社員の健康管理にご協力ください」と書かれてあるけれど、「当院の職員の健康管理にもご理解をいただきたい」

ということを手紙で送りました。

まだ、その企業からの返事はありません。
一つ気になるのは、患者さんに不利益が及ばないかどうかです。
そこが、こちらの泣き所であります。

そして、以下のことは一度書いた後、消去した部分です。

「他者に対して、過剰な要求をされる人(会社)は、身内には、さらに過剰な要求をされることが多いという印象を個人的に持っています」

ある患者さんに、そのことを聞いてみると、「そう、その通りです」と言われていました。

つまり、会社のワガママに付き合っていたら、社員もウツになるし、関わった周辺の人もウツに引き込まれそうになるのです。