2016年6月30日
親の敵のように食らう客

今年の2月、仕事を終えた後、あるお店で天ぷらを食べた。
午後2時頃の遅い時間帯の予約だったため、客は少なかった。
しかし、職人も1人だったため、他の客との兼ね合いで、ゆったりできるかと思った。

天ぷらは出てきた順にすぐに賞味した。
エビの天ぷらから始まったと思う。

しかし、私たちの予想に反して、天ぷらは次から次へと早く提供された。
職人は、早く食って、早く帰れということかと訝りながら、出されたものを次から次へと口に入れていった。

私は、天ぷらは、食べるタイミングが命と心得ているため、出されたものは、即、口にする。
親の敵のような感じだ。
鮨もなるべく早く食べるようにしている。

私と嫁は、天ぷらが早く出てくることに不満を持っていたが、職人の腹の内は、違うようだった。

コースを食べ終わった後、
「いやあ、どうしようかと思いました」
と職人さんが口にした。

目の前の2人の客だけでなく、テーブルの客の分もこなさないといけないけど、目の前の客は、まったく会話もせずに黙々と早く食べるので、間に合うかなと思いながら、一生懸命に揚げていたという話だったのだ。

人のこころの内は、分からぬものである。
私たちは、本当は、ゆっくり食べたかった。
しかし、出された熱々のものを冷やすとか、干からびさすということが嫌いだから、せっせと食べていたのである。
一方、職人さんは、お客さんを手待ちにしてはいけないと思い、一生懸命に揚げてくれたのである。

コースが終わって、天茶にした時にそのことが分かったので、和やかな雰囲気になった。
私たちは、どうも、親の敵のように食らう客だったようである。