2014年6月15日
医療で「清潔」ということ

子どもがポカリスエットを飲んでいた。
近くにコップがないので、「口飲みしたのか?」と聞いた。

うちが最近買っているものは、900mlなので、一度で飲みきることが少なくて、後で保存して飲むことが多い。
そのため、清潔を保つために、「口飲み禁止」としている。

これに対して、子どもは、口のみはしていないという。
自分の飲み方は、「滝飲み」だという。

実演しているのをみると、ペットボトルを顔の上に持ち上げて、下に落ちる水分を口で受け取るという飲み方をしている。
確かにペットボトルの口と、飲む口は接していない。

しかし、あまり上品な飲み方ではないだろう。
しかも、注いだ口から、見えない飛沫が飛び散り、それがペットボトルの口につくことはありえるだろう。

これが医療だと、清潔が担保されていると言うことはできない。

医療で言う「清潔」とは、「無菌状態であること」。

だから、前出のポカリスエットそのものも清潔かどうか分からない。

手術を行う時などは、清潔を保ちながら、患者さんに受け渡さなければならない。

例えば、滅菌ガーゼがあったとして、それを受け渡すにはどうするか?

清潔処理をしていない(と言っても普通のレベルでは十分に清潔だが、無菌処理を施していないという意味)Ns.が、周囲にいて、滅菌ガーゼを滅菌されたピンセットでつまむ。
それを、清潔域にある執刀医、あるいは助手に受け渡す。
それを患者さんに使う。
患者さんに触れた時は、もう清潔かどうか分からない。
なぜなら、患者さんの患部の病巣に雑菌が存在することは当たり前にあるから。

清潔 → 清潔 → 清潔 → 不潔

という流れで、途中に不潔をはさまないことが条件となる。

と理論的にはそうだが、100%はうまくいかないこともある。
例えば、何気ない空気中にも雑菌は存在する。

手術室やICUでは、へパフィルターでその除去を行うので、外部よりも清潔であるが、もっと免疫力の低下した患者さんの処置をする時には、エアーカーテンという装置を使うこともある。

これは、フィルターに加え、空気の流れを調節することを目的とする。
空気を上に吸い込むことで、空気中に漂う雑菌の数をさらに減らすというものだ。

そう言えば、昔、亡くなった人で臓器提供する意思を示していた人がおられた。
角膜の提供を行うという。

病理解剖の時、眼科医が訪れた。

そして、「清潔なガーゼを用意してほしい」と要望した。
すると、解剖を行う技官の補佐の人が倉庫に入って、数枚のガーゼを持ち出してきた。

それを見た眼科医は、「それは不潔じゃないか!」と喝破した。
補佐の人は、「いえ、結構きれいなものですよ」と答えた。

「清潔と不潔」の意味が食い違っていることは明らかだった。

眼科医は、下の者に命じて、医局にガーゼを取りに行かせた。
その人が帰って持ち込んだものは、さすがに清潔と言える新品の滅菌ガーゼだった。

一通りの処置が終わった後、解剖の補佐の人がつぶやいていた。
「おかしいなあ。これも結構、清潔だと思うんだけどなあ」

言葉の定義の食い違いがあると、かくなる誤解が生じるものである。