2019年4月27日
患者さんの状態がよくならないと、自分も苦しい

日頃から、少し苦手に感じる患者さんがおられます。
その人は、何ら悪くないにもかかわらずです。

その代表例が、治療に力を注いでも、よくならない方です。
繰り返しになりますが、その人に落ち度がないにもかかわらずです。

よくならないことに対して、自分が嫌になるのです。
治療者自身に心の染みができ、よくならないことが負担となってしまいます。

でも、本当は、その考え方は、合理的ではありません
変な情に左右されると、治療もぶれるし、治療関係も悪くなります。
それに、治療者自身がゆううつな気分になっていきます
だから、昔と比べて、今は罪悪感を軽減しています。

一方、標準的な治療をして、対応もきちんとしたにもかかわらず、一度うまくいかなかっただけで、転院される方もおられます
転院先では、よくなることもそうでないこともあるでしょう。

でも、私は、別に転院したからといって、それは、その人の自由だと考えていますので、苦しくはありません。
ただ、初診の手間を考えると、時間をムダにしてしまったという思いがあります。
そんなに早く転院するなら、もっと早く診てほしいという希望の人をそこに回せた方がよかったのにと考えます。

これは、いくらかの経験と勘によるもので、(大半は運が作用しますが)時に1回の治療で劇的に改善することがあります
その時には、すごく楽になったと感謝されます。

でも、それは、その治療法が、たまたま、その方に合っていただけで、他の人にあてはまることではありません

こういう個別の要因がとても大きいものですから、同じ症状、同じ治療を行っても、その先、どうなるか分かりません。

私が、研修医の時、ベテランの先生が、一度、診察したら、後によくなるかどうか、大体分かると言われていました。
正直、私は、「すごいな」ととても興味を持ち、感心しました。

しかし、今、その先生と同じくらいの年代になってきて、自分はどうかというと、「見通しは、分かりません」としか言えません
いえ、何も分からないわけではありませんが、治療の過程で、思わぬことが発生することが多々ありますので、「正直なところ、未来は分からない」と常々考えています。

患者さんやその家族に対して、その状況で、一般的なコースについて、語ることはできます。
でも、予想は、当たることもはずれることもあります。
予期しないことは発生するものです。
また、本当に偶然に身を置いた環境によって、劇的に(よくもわるくも)変化することがあります。

だから、私は、通常の医者と比べて頻度が多いかどうか分かりませんが、分からないことは分からないと言います。

市販薬を販売している製薬会社のCMで、「よくなる」と宣伝しているものがあります。
「治る」という言葉を使っているところもあるかと思います。
しかし、あれは、薬事法違反まがいの行為で、本来、そういう広告をしてはいけないことになっています。

私のホームページでも、以前から、「治る」「よくなる」という宣伝はしていません。
また、よくなった方の事例紹介もしていません。

最近は、病医院のインターネット広告にも規制がかかり、
・一部のよくなった事例紹介をしてはいけない
・有名人が通っているなどという宣伝をしてはいけない
・特殊治療がさも、効くような書き方をしてはいけない

など、制限がつきました。

ネットのすべてを監視することはできませんが、行き過ぎた広告には、指導が入ることになりました。
イケイケどんどんのクリニックもあるでしょうが、多少は、以前と比べ、ソフトで一般的な表現が多くなるだろうと思います。

いくらか前から、自分が治療することが難しい方、難治性でよくなる見込みが少ないと思われる方に対して、限界に来る前に、患者さん自身に聞いています

「他の病医院の医師にかかると、視点が変わる場合がありますから、転院して、治療をしてみますか?」
「現在、これ以上よくなる方法を見いだせない状況になっています。他のところに変わって治療してみたいという気持ちはありますか?」

治療歴の浅い患者さんは、転院される率が高くなります。
また、上記で述べたように、自ら、転院先を探してこられる方も少しおられます。

ある程度、治療回数も重ねて、ある程度よりよくはならないけれど、最初よりは、楽になった方の多くは、「いえ、別に変わるつもりはありません」と言われる方が増えてきます。
そういう方は、ホウレンソウを食べたら、ポパイが強くなるというような幻想は持ち合わせておらず、冷静に自分を見られているように思います。

また、転院に際して、不安を持たれる場合もよくあります。
それで迷った時、
「転院して、変わった病院が気に入れば、続けて通われればいいですよ。でも、こちらに戻りたくなったら、簡単に戻れますから、大丈夫ですよ」
そう後押しして、紹介状を渡した方もおられます。

私は、ゆうに100冊をはるかに超えるビジネス書を読んでいます。
でも、ビジネスはヘタみたいです。